「忍足〜!」
今は、放課後。ほとんどの生徒が部活動をしている。
そして、ここは男子テニス部。
マネージャーのが何やら、上機嫌で忍足を呼んでいる。
忍足 「そない、大声出さんくても、聞こえとるて・・・。」
なんや?と忍足は聞いた。
「今日、滝君としゃべれた〜!」
忍足 「・・・そうか。それは、よかったなぁ。」
呆れ気味に、忍足は言った。
「なんで、そんな棒読みなのよ〜!」
忍足が呆れた口調で言ったのが、の気に障ったらしい。
忍足 「いや・・・。だって、滝って同じクラブやん。」
そうなのだ。滝は、正レギュラーからは外されてしまったけれど、れっきとした、氷帝学園の男子テニス部員なのである。
「私にとって滝君は、神様よりも尊いお方なの!」
忍足 「そら、好きな人は神様よりも尊いやろうなぁ。」
忍足の言うとおり、は滝に好意を抱いている。もちろん、異性として、だ。
「私の気持ちがわからない忍足君には、取って置きの話を聞かせてあげよう!」
忍足 「いや、えぇわ・・・。だって、それ、もう17回目やで?」
どうやら「取って置き」では、ないらしい。
「そんなのマシな方よ。なんと、めでたいことに、宍戸はこの話を聞くのを20回突破致しました〜!」
忍足 「それは、それは。・・・宍戸。ご愁傷様。」
「死んでない、っつーの!まぁ、いい。記念すべき17回目の話を聞きなさい。」
そうして、「取って置き」ではない話が始まった。
それは、雨の日のこと・・・。
朝の天気予報は見事に外れ、どこを見ても暗い雲ばかりだ。
「傘、持ってきてないし・・・。」
は、男子テニス部のマネージャーであるから、雨の日は部活が無くなるのである。
「生憎、友達は、天気に左右されない文科系クラブ・・・。どうしよう。」
そうして、は雨の中、傘も差さずに帰ったのだった。
「(制服、びしょ濡れ・・・。帰ったら、干さないと。・・・ん?あれは・・・。)」
は、とぼとぼ、と帰っていた。すると、前方に氷帝の制服を着た、見覚えのある、男子生徒が傘も差さずに歩いていた。
「(もしかして・・・。)」
は、その男子生徒に駆け寄った。
「滝君!」
その男子生徒は振り向いた。そして、きれいな笑顔を向け、に言った。
滝 「あれ?さん。どうしたの?」
それが、が好意を抱いている、滝だったのだ。その頃、は滝のことを少し、気にしていただけで、「好き」という感情は持っていなかった。
「それが、傘持ってきてなくて・・・。」
滝 「あぁ。俺も、だよ。今朝、天気予報見てきたんだけどなぁ。」
「私も!でも、晴れだ、って言ってたから、持ってこなかった。」
滝 「俺も。とことん一緒だね。俺とさん。」
「ハハ。そうだね。」
「一緒だ」と言われ、は少し、嬉しかった。
滝 「そうだ。さん、今日ヒマ?」
「えっ・・・?」
予想外の事を聞かれ、は驚いた。
滝 「何か、用事あるんだったら、いいけど・・・。」
「ううん。無いよ。雨の中、帰ってるけど、実はヒマ。」
滝 「俺もなんだ。1人じゃ、雨が止むのを待つの、嫌だけど、今はさんがいるし、一緒に待とうかな、って思ったんだけど・・・。いい?」
「うん、いいよ。でも、止むかなぁ?」
滝 「たぶん。天気予報で晴れだ、って言ってたし、これは通り雨だ、と思うんだ。だから、すぐ止むと思うよ。」
「そっか。滝君、頭いい〜!」
滝 「そんなこと、ないよ。・・・それより、どこ行く?外で待ってると、風邪ひくし・・・。だから、と言って、こんな濡れた格好で喫茶店なんかには入れないだろうし。」
「う〜ん・・・。それに、濡れたままで、コンビニとかに入っても、冷房で風邪ひきそう。」
滝 「それも、そうだね。」
「どうしようか・・・。」
そう言って、2人は考えた。
滝 「仕方ない。どこか、雨の当たらない所に行こうか。」
「うん。外の方が、まだマシかもしれないね。」
こうして、2人が向かった場所は、公園にある、木の下だった。
滝 「意外と、雨かからないね。」
「うん。ちょっと、今まで木のことをなめてた。」
滝 「俺も、かな。・・・木もやるねー。」
「たしかに。」
そうやって、2人は微笑んだ。は、それがなんだか、照れくさかった。
滝 「さん、雨好き?」
今まで、そんなことを考えたことが無かったは、少し戸惑ったが、すぐに答えを出した。
「部活が無くなるのは嫌。だけど、雨が降った後は、虹が時々見えるから、いいかな、とも思う。虹って綺麗だしね。」
友達とだったら、こんな素直なこと言わないけど、滝とだったら、自分の気持ちが素直に言えるな、とは感じた。
滝 「虹、綺麗だよね。・・・でも、俺は雨も好きかな。」
「どうして?」
滝 「雨のにおいとか、雨の音、って、すごく落ち着くんだ。・・・変かなぁ?」
「ううん。言われてみれば、そんな気もする・・・。」
は、自分とは違う、滝の意見に、なぜか納得した。
滝 「・・・もうすぐ、止みそうだね。」
そう言って、滝は空を見上げた。も、同じようにした。
「・・・ホントだ。」
滝 「もう少し、降ってもよかったのに・・・。ね?」
その瞬間、は自分の鼓動が早くなるのが、わかった。
「う・・・、うんっ。そうだね。」
滝 「家まで送って行くよ。さんの家、って向こう・・・?」
「うん、そうだけど・・・。滝君の家は、あっちじゃない?」
は、自分の家とは逆方向の道を指さした。
滝 「まぁね。でも、今日は一緒に雨宿りしてくれた、お礼。」
「そんなの、こっちだって・・・。」
滝 「いいから、いいから。」
「う〜ん・・・。じゃ、お願いしちゃおうかな。」
滝 「どうぞ。」
そうして、2人は、の家に向かった。部活の話をしながら・・・。
滝 「今日は、楽しかったよ。」
「私だって!」
デートの後のセリフみたい、とは思ってしまった。
滝 「じゃ、風邪ひかないように、ね。」
「滝君も。」
滝 「それじゃ、また明日。」
「うん。また明日!」
は、その日、制服を干し、急いで風呂に入り、風邪をひかないよう、万全の注意を払った。明日、学校に行けるように。明日、好きな人に会えるように。
「さぁ、忍足君。感想は・・・?」
忍足 「えぇと・・・。滝は、やっぱり、えぇ奴やと思った。」
「それ、3回目の時と、同じ。」
忍足 「しゃーないやん。」
どうやら、は、毎回毎回、感想を聞いているらしい。
「はぁ〜。今日も、雨降らないかなぁ〜・・・。」
忍足 「自分、ホンマ雨好きやなぁ。」
「当然!だって・・・。」
なぜなら、あの日、滝と帰れたから、そう言おうとした時、誰かが2人の会話に入ってきた。
滝 「何、話してるの?」
は、滝だと気付いて、動揺した。
「滝君!・・・えぇと、雨が好きだ、っていう話を・・・。ね?忍足。」
忍詩 「ん?まぁな。・・・ほな、俺はちょっと・・・・・・。」
忍足は気を利かせたのか、その場を離れた。
「ちょ・・・!もう。」
滝 「ゴメン。俺のせい?」
申し訳なさそうに、滝が言った。
「ううん!違う、違う!」
滝 「ホントに?」
「うん。ホントに。ウソだったら・・・、校庭を100周する!」
滝 「くすくす。それは、よかった。俺、邪魔したのかと思った。」
「とんでもない!」
は、焦って誤解を解いた。
滝 「・・・そういえば、前、こんなことあったの、覚えてる?さんが雨の話をしてて、思い出したんだけど。」
「ん?どんなこと?」
滝 「雨の日、傘も差さずに帰って、途中で木の下で雨宿りしたこと。」
「うん!覚えてるよ!」
今、その話をしていたところだ、とは言いそうになったが、慌てて口をふさいだ。
滝 「俺、あの日『雨も好きだ』って言ってたの、覚えてる?」
「うん。それから、私も雨のことが好きになった。」
滝 「実は、俺、その日まで、雨って、あんまり好きじゃなかったんだ。」
「えっ?そうなの?でも・・・。」
滝 「あの日、雨もいいかな、って思ったのは別の理由だったんだ。」
「?」
は、考えたが、全く考えがつかなかった。
滝 「この雨のおかげで、さんと帰れたんだなー、って思って。そしたら、急に雨を好きだと思えた。」
は、顔が赤くなるのが、わかった。
「わ、私も、あの時、帰れてよかった、って思った!」
滝 「さんも?」
「うん!もちろん!」
滝 「・・・俺、あの日、さんに声をかけられて、すごく驚いた、と同時に、すごく嬉しかった。まさか、気になってる女の子と一緒に帰れるとは、思ってなかったからね。」
「・・・・・・?!」
は、信じられない、といった顔をしながらも、滝の話を聞いた。
滝 「それで、たくさん話してみると、やっぱり、いい人で・・・。俺は、どんどん惹かれていってた。で、さんの家の前で『また、明日』って言った時、『俺、明日もさんに会えるんだ』って、思って・・・。」
滝は、今更、恥ずかしそうに、語尾がしどろもどろになった。
「私も思った。『また、明日も会えるんだ』って。『明日、風邪で休まないよう、気をつけないと!』って。」
も、恥ずかしがりながらも、自分の素直な気持ちを打ち明けた。
滝 「俺も、好きな人に会うために、風邪ひかないように、って慌てて風呂に入ったよ。」
「プッ・・・!私も!」
何がおかしいか、わからないが、は思わず、笑ってしまった。
滝 「ホントに?」
「うん。もう、考えてることから、行動まで全部!」
滝 「俺達、あの日もそうだったよね?天気予報を見て・・・。」
「そう、そう!で、傘持ってきてなくて・・・。」
滝 「じゃ、今は、どうだろう?」
「今?」
滝 「俺は、さんと付き合いたい。」
「もちろん、私も。」
2人は顔を赤らめながらも、微笑み合った。
滝 「やっぱり、一緒だね。」
「うん!・・・・・・あっ。」
その途端、何かが空から落ちてきた。・・・・・・・・・雨だった。
跡部 「今日の部活は、中止だ!お前ら、風邪ひかないうちに、さっさと帰れよ!」
そう、部長の跡部が叫ぶのが聞こえた。
滝 「天候まで、あの日と一緒だよ。」
「じゃ、あの日のように公園で雨宿りしていきましょうか?」
滝 「うん、賛成。」
2人は、あの日と同じ、公園の木の下で、雨が止むのを待った。しかし、あの日と違うものも、いくつかあるみたいだ。
あの日と比べると、2人の距離は随分と近くなった。そして・・・。
「雨、止んだね。あの日と同じ。」
滝 「そうだね。・・・・・・あっ。さん、あそこ。」
「わっ・・・。綺麗・・・。」
そして、雨上がりに虹が出来たことも。
これは、かなり昔に書いたものです。というか、昔に書いた没作品の集合である「危険」ページを除くと、これが1番古いかもしれません。
なので、やや修正はしたつもりなんですが・・・。何かおかしかったら、すみません・・・。
でも、古い割には、そこそこ気に入っているので、修正してまで、こちらのページに。
やっぱり、髪の毛が綺麗な人と雨、っていうセットはおいしいと思うんですよ!(笑)
なので、同じく髪の毛が綺麗な向日さん編もありますので、気が向きましたら、そちらもご覧になってみてください♪